大宮冬洋の「常連になりたい!」 第9回 ル・タン(東京都新宿区)

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 ウェブマガジン「冬洋酒」では月4本、取材記事を配信しています。その連載の一つである「大宮冬洋の『常連になりたい!』」の第9回は新宿にあるダイニングバー「ル・タン」です。コロナ禍が収束したら、すぐにでも再訪したいお店です!

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  何度でも通いたくなる店とは、店主の人柄と能力、感性を好きになった結果だと思う。僕の場合は、粋でタフだけど真っ直ぐなところがある店主に心惹かれる。そんな人に顔を覚えてもらい、言葉を交わしながらサービスを受けると励ましのようなものを感じるのだ。
 新宿三丁目にあるダイニングバー「ル・タン」を知ったのは今から10年以上前。フリーの女性編集者が「いいお店がある」と連れて行ってくれた。店主の涌井香織さんは会社員時代の元同僚だという。
 ル・タンはいかにもマスコミ業界の人が好きそうな雑居ビルの地下にある。新宿駅からも新宿三丁目駅からも徒歩3分ほどで行ける。おすすめは新宿東口の地下街から丸井本館に入って1階に上がって裏玄関から出るというルート。裏通りの向かいにル・タンがある。ほとんど雨に濡れずに到着できるのが嬉しい。
 内装は、宇野亜喜良氏の大きな壁画が特徴的で、洞穴を利用した小さな舞台のようだ。初めての訪問のとき、ちょっと緊張しながら店に入ってすぐに涌井さんが丁寧に挨拶してくれたのが嬉しかった。
 あれから10年。僕にもいろいろあった。仕事も結婚生活もうまくいかずに苦しんでいた頃はル・タンに行けなかった。でも、再婚して愛知県に引っ越してからも、東京にいるときは「顔を出したいな」と思う夜がある。
 ル・タンは気軽に利用できる店なので、同窓会やイベントで貸切にさせてもらったり、友人や仕事仲間と一緒に行くことも少なくない。ただし、最近は他の場所で会食した帰りに寄り道をして1人で行くことが増えた。涌井さんがお店にいるときはあれこれとおしゃべりできるし、同じカウンター席に座った人を紹介してもらい、思いがけず深い話になったりする。輝くような一期一会の時間だ。
 店との信頼関係があれば、一人でも寂しさを感じずに飲食を楽しめることを僕は知りつつある。今日も涌井さんと語り合いたいと思う。

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著者プロフィール

大宮 冬洋
 1976年埼玉県所沢市生まれ、東京都東村山市育ち。男三人兄弟の真ん中。一橋大学法学部を卒業後、ファーストリテイリング(ユニクロ)に入社して1年後に退社。編集プロダクションを経て、2002年よりフリーライターになる。
 高校(武蔵境)・予備校(吉祥寺)・大学(国立)を中央線沿線で過ごし、独立後の通算8年間は中央線臭が最も濃いといわれる西荻窪で一人暮らし。新旧の個人商店が集まる町に居心地の良さを感じていた。今でも折に触れて西荻に「里帰り」している。
 2012年、再婚を機に愛知県蒲郡市に移住。昭和感が濃厚な黄昏の町に親しみを覚えている。月のうち数日間は東京・門前仲町に滞在し、東京原住民カルチャーを体験中。
 2019年、長期連載『晩婚さんいらっしゃい!』により東洋経済オンラインアワード2019「ロングランヒット賞」を受賞。

<著書>
『30代未婚男』(リクルートワークス研究所との共著/NHK出版 生活人新書)
『ダブルキャリア』(荻野進介氏との共著/NHK出版 生活人新書)
『バブルの遺言』(廣済堂出版)
『あした会社がなくなっても生きていく12の知恵』(ぱる出版)
『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました』(ぱる出版)
『人は死ぬまで結婚できる~晩婚時代の幸せのつかみ方~』(講談社+α新書)
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