写真:名古屋市内のベトナム料理店にて。福嶋さんは福岡からLCCを使って日帰りで来てくれました。中部国際空港では「世界の山ちゃん」と「しゃちほこバームクーヘン」をたくさん買って帰ったそうです。
福岡から愛知まで会いに来てくれた取材先。行動力と心遣いに脱帽!
結婚するために一番必要な「力」は行動力だと思う。赤の他人と出会って夫婦になるのは、考えてみればリスキーな行為だからだ。当然ながら、結婚を後押しする結婚相談所のカウンセラーにもその力がないと会員に対して説得力がない。本連載に登場する人たちは独立開業というハイリスクな行動を経験している。
その中でも行動力の化身のような女性を紹介してもらった。2023年6月に結婚相談所「muguet福岡」を福岡市で開業した福嶋佐恵子さんだ。筆者が住んでいる愛知県蒲郡市からはやや距離があるので、何かのついでにお会いするかオンラインでインタビューしようと思っていた。その旨を伝えると、福嶋さんは愛知県までわざわざ会いに来てくれるという。会社員時代に名古屋で働いていたこともあり、「友だちにも会えるので一石二鳥」とのこと。お話を聞かせてもらうこちらが福岡に出向かないことを申し訳なく感じていた筆者への心遣いだろう。
母親から「食いっぱぐれてはいけない」と言われて育った福嶋さん。地元の私立大学に進学して看護師の資格を取ったものの地元の病院勤務は性に合わなかった。若い頃の福嶋さんには「世界が狭すぎる」と感じられたからだ。
「外の世界を見たいと思って、新薬臨床試験を扱う会社に転職しました。看護師の資格も生かせるコーディネーター職種です。被験者様は試験であることを承知で臨んでくれるので、病院の患者さんと看護師の関係とは違ってフェアだと感じました。コーディネーターとしていろんなところに行けるのが楽しかったです」
素性を知らない相手との「授かり婚」から始まった不毛な結婚生活
最初の結婚相手との出会い方はちょっと心配になるほどの行動力を感じさせる。東京に転勤することになった際、都内の賃貸マンションを案内してくれた不動産会社の営業担当者を「素敵な人。付き合いたいな」と思って好き好き光線を出したという。
「気づいてくれないのかなと思っていたのですが、マンションの契約を結んだ後に『ゴハンに行きますか?』と誘ってもらえました」
そのまま交際することになり、数か月後には妊娠、29歳で「授かり婚」を果たした。福嶋さん自身は結婚相談所などの助けが要らない恋愛能力の持ち主である。
しかし、福嶋さんは素性も人となりもよくわからない相手との結婚は避けるべきだと感じている。勢いで一緒になった前夫との生活は当初から破綻していたからだ。
「長男を出産したときのことは忘れられません。入院中が丁度クリスマスで、ケーキを買ってきた彼と一緒に幸せな時間を過ごしていたはずの私に、『かわいい赤ちゃんを見て父親として目覚めた。君のことはもう女として見られない、ごめんね』と優しく宣言したんです。ショックで『そっか』としか返答できませんでした。正直だけどまったく優しくないと思いました(笑)」
前夫は子どもたちをかわいがったものの共働きなのに家事を手伝うことは一切なく、福嶋さんに対しては宣言通りセックスレスだけでなく喧嘩が増え、そのたびに人格否定の言葉を吐くようになったという。耐えきれなくなった福嶋さんが離婚を模索していた頃、前夫は急に亡くなってしまった。
「38歳のときでした。子どもを連れて地元の福岡に戻りましたが、特にうちの長男には父親が必要だと思いました。世間体を気にしている場合ではないので、昔からの知り合いと翌年に再婚しました。子どもたちは今の夫に懐いています」
ちなみにその男性は「看護師時代に飲みに行ったお店でバイトしていた大学生」だという。酔っ払って連絡先を交換してからも友人関係が続いていた。
自分と同じ失敗は他の人にしてほしくない。紹介から成婚までに寄り添いたい
福嶋さんの話を聞いていると、この人は結婚相談所ではなく恋愛結婚カウンセラーのほうが向いていると思った。結婚相談所はどちらかというと恋愛は不得手な人が集まる場だからだ。しかし、福嶋さんには「自分と同じような失敗は他の人にしてほしくない。紹介から成婚まで寄り添いたい」という強い意思がある。
「オプションで買い物同行プランも用意してあります。特に男性にお勧めです。女性目線で素敵な服を選ぶ自信があります!」
あり余るほどのやる気と行動力は今のところやや見当違いなところで発揮してしまっている。結婚相談所業界で「連盟」と言われる会員データシステム会社の1つに入るために170万円超も払わされ、さらに業務に必要ではない「婚活アドバイザー」資格も取得(受講料4万円)。また、見ず知らずの「TikTok運営コンサルタント」に総額80万円も支払って効果はゼロだったという。その他を含めるとすでに300万円ほどの「初期投資」になっているはずだ。
厳しさ増す結婚相談所ビジネス。稼ぎながら営業する道がおすすめです
筆者は結婚相談所訪問をライフワークとしているが、初期投資すら回収できずに休業や廃業をするところを数多く見てきている。少子化や非婚化、マッチングアプリの台頭、競合の急増などによって、結婚相談所は熱意と良心だけでは成り立たないビジネスモデルになったと感じる。新規会員を継続的に入れるのは至難の業なのだ。だからこそ、気力体力がありそうで行動力は抜群な福嶋さんに余計なお世話でもアドバイスをしたい。
まず、コンサルティングや資格ビジネスとは距離を置くこと。看護師とは違い、結婚相談所には資格などは不要だ。むしろ実力と実績だけがものを言う世界だと考えてほしい。開業初期の不安に駆られて無駄な出費をしてはいけない。連盟に入り続けるのであれば、月会費分だけの機能を使い倒すぐらいの気持ちで臨もう。
次に営業手法。福嶋さんの場合は看護師資格を生かすべきだと思う。多くの病院は人手不足なので、週に数日でもアルバイトをするのはどうだろうか。職場でスタッフや患者を勧誘するのではなく、婚活市場では人気だけど現実には夜勤などの苦労を抱えている医療関係者の「現場感」を取り戻すためだ。現役の看護師が運営する結婚相談所としてアピールできるし、高めの時給も手に入る。まさに一石二鳥だ。聞かれた場合は、結婚相談所もやっていると答えれば控えめな営業活動になるだろう。次に福嶋さんと会うときは、地に足の着いた営業活動と会員の成婚ストーリーを聞ける気がする。
(取材日:2024年3月23日)
※muguet福岡の問い合わせ先はこちらです。
著者プロフィール
- 1976年埼玉県所沢市生まれ、東京都東村山市育ち。男三人兄弟の真ん中。一橋大学法学部を卒業後、ファーストリテイリング(ユニクロ)に入社して1年後に退社。編集プロダクションを経て、2002年よりフリーライターになる。
高校(武蔵境)・予備校(吉祥寺)・大学(国立)を中央線沿線で過ごし、独立後の通算8年間は中央線臭が最も濃いといわれる西荻窪で一人暮らし。新旧の個人商店が集まる町に居心地の良さを感じていた。今でも折に触れて西荻に「里帰り」している。
2012年、再婚を機に愛知県蒲郡市に移住。昭和感が濃厚な黄昏の町に親しみを覚えている。月のうち数日間は東京・門前仲町に滞在し、東京原住民カルチャーを体験中。
2019年、長期連載『晩婚さんいらっしゃい!』により東洋経済オンラインアワード2019「ロングランヒット賞」を受賞。
<著書>
『30代未婚男』(リクルートワークス研究所との共著/NHK出版 生活人新書)
『ダブルキャリア』(荻野進介氏との共著/NHK出版 生活人新書)
『バブルの遺言』(廣済堂出版)
『あした会社がなくなっても生きていく12の知恵』(ぱる出版)
『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました』(ぱる出版)
『人は死ぬまで結婚できる~晩婚時代の幸せのつかみ方~』(講談社+α新書)
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