寺社の縁結び(東京都世田谷区)

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写真:僕と「神社の縁結び」の出会いの場となった神奈川県の伊勢原大神宮。伊勢原市の名称の由来である由緒正しい神社です。

神主と僧侶専門の結婚相談所。2年間で7組が成婚!

 特定の宗教を信仰はしていない僕だけど、神社やお寺にお参りするのは好きだ。地盤が固い場所に建てられているものなので安心感があるし、地域の歴史を知るのは楽しいし、隅々まで掃き清められていたりすると気分がいい。神主さんやお坊さんの凛とした姿には自然と頭が下がったりする。
 そんな神社仏閣を支える神主や僧侶を専門にした結婚相談所がある。その名も「寺社の縁結び」。代表の津守良彦さんは2008年に保険代理店、2014年に一般向けの結婚相談所をそれぞれ開業。勤め人時代はゴルフ場の支配人をしていた経歴があり、社交上手な紳士という第一印象だ。この津守さんに加え、関西在住で婚活業界歴24年というベテランの小野章代さんと、母方の親戚は全員が僧侶もしくは坊守(ぼうもり。住職の妻。ただし、宗派により妻の呼び方は異なる)で宗教全般に詳しい草野俊哉さんという強力な3人で運営している。
 津守さんが寺社の縁結びを開業したのは2022年12月。知り合いの神主から「神職や僧侶は結婚相手探しに困ることが多い。宗教専門の結婚相談所を作ってほしい」と依頼を受けたことがきっかけだった。
「一般の結婚相談所に入会すると、他の多様な人たちと混じってしまうことになります。職業名も特殊だし、(禅宗などの)僧侶の場合は剃髪しているので見た目でも戦いにくいのが現実です。お見合いがなかなか組めません」
 とはいえ神主や僧侶に専門特化して本当にニーズがあるのか疑問だったと明かす津守さん。開業してみたところ、意外なほどの反響があった。2023年には3組、2024年には4組の成婚カップルを誕生させたという。 

お見合いさえ組めれば大丈夫。1人目のお見合い相手と結婚した人が半数

 結婚相談所の大半はIBJ、BIU、TMSといった会員情報共有システム(業界用語で「連盟」と呼ばれる)に参加している。その結婚相談所の会員は数十人だとしても、システムを利用することで自分が住んでいる都道府県内だけでも数百人、数千人の異性を検索してお見合いを申し込めるからだ。ただし、それは相手も同じなのでお見合いや交際を断られやすくなる。お互いに「もっといい人がいるのではないか」と選び合っているのだから仕方ない。
 寺社の縁結びはこうした連盟に参加していない。同社のホームページによると、「僧侶さん、神主さん」と「婿入りできる男性を探す寺院や神社の娘さん」(寺社会員)、「僧侶さんや神主さんと交際や結婚したい女性」と「寺院や神社の娘さんに婿入りできる男性」(一般会員)の4者に会員を限っているため、連盟に入るメリットがないのだ。
「会員を集める苦労は常にあり、寺社専門のイベント会社などと提携して、会員を紹介してもらっているところです。お見合いは可能な限り対面をお勧めしていますが、遠方の場合にはオンラインで行っています。どちらの場合にも我々が立ち会います。遠距離交際のコミュニケーションのサポートは大変ですけど……」
 運営の苦労を率直に話してくれる津守さん。一方で、神主や僧侶と結婚したい人だけが集まる場であるため、お見合いさえ組めれば話が早いという爽快さがある。
「一般的な結婚相談所だと何十人とお見合いすることがざらです。お見合いしても成婚までなかなか進めなかったり。寺社の縁結びでは1人目のお見合い相手と結婚した方が半数を超えています」
 連盟に参加している結婚相談所の場合、男女双方に別々の相談所のカウンセラーがついているため、お見合いから成婚に至るまでのコミュニケーションが「伝言ゲーム」になってしまう。自分は真剣交際に進みたいのに相手の気持ちがわからないときなど、カウンセラー間の連係ミスのせいでこじれてしまうこともあり得る。寺社の縁結びは自社会員のみでクローズドでお見合いを組んでいるため、一人のカウンセラーが男女双方を担当できる。それぞれが今どのような気持ちでいるのかを正確に把握でき、関係性を前に進めやすい。

代表の津守さんが送ってくれた写真。「我が家の近くにある通称九品仏というお寺の紅葉です」

代表の津守さんが送ってくれた写真。「我が家の近くにある通称九品仏というお寺の紅葉です」

 

様々なスキルを有効活用できるのが寺社。アクティブな人ほど向いている

 マニアと言えるほど宗教好きの草野さんには津守さんと少し異なる視点での楽しみがある。会員との縁が成婚後も長く続くことだ。
「私も以前は一般向けの結婚相談所を運営していましたが、成婚した人とは関係が切れてしまうことがほとんどでした。私としては長いお付き合いを望んでいるのですが……。寺社の縁結びは違います。終活カウンセラーや葬儀会社の人たちとコミュニティを作って寺社の経営をサポートすることで良き関係が続けられています」
 賽銭や観光収入で潤っている神社仏閣はごく一部で、檀家が減って困っているお寺は少なくない。後継者不足と経営難は寺社衰退の二大原因なのだ。草野さんによれば、墓参りをする人すらも減って閑散とした寺が増えている。集客は喫緊の課題なのだ。
「結婚して寺社に入ると自由がなくなるようなイメージがありますが、寺社は宗教活動の他に34種類の収益事業ができることはご存知でしょうか。幼稚園経営や不動産事業はよくありますが、人材派遣や出版印刷業もできるのです。しかも一般の事業会社よりも税率は低く抑えられています。様々なスキルを活かせるので、アクティブな人ほど結婚先としておすすめです」
 婚活のコツは、自分の中にあるいい意味での偏りを見つめて競合を避けることだと僕は思う。例えば、とにかく自然が好きで田舎暮らしを厭わない人であれば、地元を離れられない跡取りたちとのご縁を結びやすい。都会から離れた場所であるほど行きたがる人は少なく、跡取りたちは相手探しに困っている。光り輝くような「掘り出しもの」が残っているかもしれない。
 神社やお寺が好きで、その運営や活用に興味があるのもなかなか強烈な偏りだ。競合する同性は少ないだろう。結婚相手探しに生かさない手はない。寺社の縁結びのような場を使って自分だけの掘り出しものを見つけてほしい。

(取材日:2024年12月30日) 

※寺社の縁結びの問い合わせ先はこちらです。

代表の津守さんと(左上)とカウンセラーでイベント企画や寺社の経営相談も担当している草野さん(中央)。朗らかなおじさまたちです。

代表の津守さんと(左上)とカウンセラーでイベント企画や寺社の経営相談も担当している草野さん(中央)。朗らかなおじさまたちです。

著者プロフィール

大宮 冬洋
 1976年埼玉県所沢市生まれ、東京都東村山市育ち。男三人兄弟の真ん中。一橋大学法学部を卒業後、ファーストリテイリング(ユニクロ)に入社して1年後に退社。編集プロダクションを経て、2002年よりフリーライターになる。
 高校(武蔵境)・予備校(吉祥寺)・大学(国立)を中央線沿線で過ごし、独立後の通算8年間は中央線臭が最も濃いといわれる西荻窪で一人暮らし。新旧の個人商店が集まる町に居心地の良さを感じていた。今でも折に触れて西荻に「里帰り」している。
 2012年、再婚を機に愛知県蒲郡市に移住。昭和感が濃厚な黄昏の町に親しみを覚えている。月のうち数日間は東京・門前仲町に滞在し、東京原住民カルチャーを体験中。
 2019年、長期連載『晩婚さんいらっしゃい!』により東洋経済オンラインアワード2019「ロングランヒット賞」を受賞。

<著書>
『30代未婚男』(リクルートワークス研究所との共著/NHK出版 生活人新書)
『ダブルキャリア』(荻野進介氏との共著/NHK出版 生活人新書)
『バブルの遺言』(廣済堂出版)
『あした会社がなくなっても生きていく12の知恵』(ぱる出版)
『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました』(ぱる出版)
『人は死ぬまで結婚できる~晩婚時代の幸せのつかみ方~』(講談社+α新書)
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