こんにちは。大宮です。
仕事仲間に会ったときなどは「最近、いい仕事と人間関係に恵まれて充実しているオレ」を演出したりしてしまいます。
いわゆるリア充ですね。
でも、そんなのほとんどウソ。僕の本質は妄想なんです。
起きている時間の6割ぐらいは、映画やマンガの主人公みたいにカッコよく生まれ変わった自分とその活躍を妄想して「グフフフ」と楽しんでいます。
我ながら暗いですね……。
この妄想癖は小学生ぐらいから続いています。精神的な持病です。
仕事をがんばって出世したい、という健全な野心とは違いますよ。
それならば働く原動力になりますからね。
僕の場合は、日中にソファで寝転んだりしながら「天才に生まれ変わったら……」と不毛な妄想をしているに過ぎません。
努力の源泉ではなく、現実逃避とサボりの温床になっています。
少しは客観化して妄想癖を静める意味も含めて、日々どんな妄想をしているのかを書いていこうと思います。
***
ある大手メーカーに勤めるアラサー男女が社内結婚をすることになった。
その披露宴には、それぞれの部署の上司や同僚をはじめとする会社関係者が勢ぞろい。
主賓は常務である。
新郎の上司である大宮係長(36歳)は、手堅い仕事ぶりで一部に知られている。隠れた幹部候補生だ。
しかし、いつも地味なスーツ姿で淡々と働いており、感情的になることはほとんどない。
昼食はたいてい愛妻弁当だ。
派手な社員からは「昭和の遺物」「カタブツくん」と軽んじられている。
大宮係長は今日の礼服も年齢の割には保守的すぎる。
口の悪い女性社員たちは「親戚のおじさんみたい」と笑い合っているようだ。
披露宴は順調に進み、余興の時間になった。
学生時代に軽音楽部で活躍した新郎が久しぶりにドラムを演奏するらしい。
新郎と親しい3人も席から立ち上がった。
いずれもイケメンで仕事のできるアラサー独身男性だ。
女性社員たちから好意的な笑いが起こる。
なぜか大宮係長まで立ち上がった。このタイミングでおしっこ? 間が悪すぎるぞ。
しかし、大宮係長は表情をほとんど変えずに舞台に上がり、上着を脱ぎ、中央に用意されてあるキーボードの前に座った。社内関係者の席からはどよめきが起こる。
実は、新郎と仲間達だけは知っていたのだ。
大宮係長は学生時代に「財津和夫2世」の異名を取り、プロを目指していた時期もあるほどの歌い手だということを。
バンドの演奏が始まり、大宮係長は慣れた様子でキーボードを奏でつつ静かに歌い出した。
チューリップの名曲『青春の影』だ。
君の心へ続く 長い一本道は
いつも僕を 勇気づけた
(中略)
今日から君は ただの女
今日から君は ただの男
繊細かつ伸びやかな美声。堂々とした歌いっぷり。
細身の大宮係長は若かりし頃の財津和夫にしか見えない。
演奏が終わり、控えめな笑顔で新郎新婦と固い握手を交わす大宮係長。
会場は拍手喝采。
常務をはじめとする上層部は誇らしげに笑い、男性社員は大宮係長を大いに見直し、女性社員は恋をしてしまったようだ。
すごいぞ、大宮係長!
***
現実の僕は、カラオケの採点機能で「0点」を出したことのある音痴です。
歌に自信がないので声も小さく、場を白けさせてしまいます。
音痴をネタに笑いを取ることもできないのです。
0点を出したときは、同席していた女性の一人から「ある意味で天才」と真顔で言われました。
ああ、財津和夫に生まれ変わりたい……!
著者プロフィール
- 1976年埼玉県所沢市生まれ、東京都東村山市育ち。男三人兄弟の真ん中。一橋大学法学部を卒業後、ファーストリテイリング(ユニクロ)に入社して1年後に退社。編集プロダクションを経て、2002年よりフリーライターになる。
高校(武蔵境)・予備校(吉祥寺)・大学(国立)を中央線沿線で過ごし、独立後の通算8年間は中央線臭が最も濃いといわれる西荻窪で一人暮らし。新旧の個人商店が集まる町に居心地の良さを感じていた。今でも折に触れて西荻に「里帰り」している。
2012年、再婚を機に愛知県蒲郡市に移住。昭和感が濃厚な黄昏の町に親しみを覚えている。月のうち数日間は東京・門前仲町に滞在し、東京原住民カルチャーを体験中。
2019年、長期連載『晩婚さんいらっしゃい!』により東洋経済オンラインアワード2019「ロングランヒット賞」を受賞。
<著書>
『30代未婚男』(リクルートワークス研究所との共著/NHK出版 生活人新書)
『ダブルキャリア』(荻野進介氏との共著/NHK出版 生活人新書)
『バブルの遺言』(廣済堂出版)
『あした会社がなくなっても生きていく12の知恵』(ぱる出版)
『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました』(ぱる出版)
『人は死ぬまで結婚できる~晩婚時代の幸せのつかみ方~』(講談社+α新書)
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