写真:日本硝子をふんだんに使用したインテリアがある事務所。明るく前向きな気持ちで婚活できそうだ。
求められているのは一人ひとりの話をちゃんと聞くこと
東京メトロの神楽坂駅。2番出口を出て、右手に新潮社の「la kagu」、左手にブックカフェ「かもめブックス」がある文化度の高い通りを2分ほど歩くと、1階にオシャレな不動産屋が入居する小さなビルが見える。その3階まで階段で登れば「東京世話焼きおばさんの縁結び(以下、世話オバ)」の事務所に到着だ。
中に入ると、ガラスをふんだんに使ったインテリアが目を引く。太陽光もたくさん入る部屋で待っていてくれたのは、小野寺優子さんと下間瑞紀さん。2人は芸術系の大学時代からの親友で、かつてはデザインオフィスを共同経営していた。現在の事務所にも下間さんが描いた絵本のような油絵が飾られている。
少子高齢化などの問題解決には「人と人との結びつきが大切」という思いからNPOとして世話オバをスタートしたのが2010年。2人の他にもお世話好きの女性たちがメンバーに加わり、月1回ペースで婚活パーティーを開催していた。手料理を振る舞うなどの手を尽くしたが、「パーティーは労多くして報われなかった」と下間さんは苦笑する。
「結局、求められているのは一人ひとりの話をちゃんと聞いていくことだと気づきました。
成婚だけがゴールじゃない。それがすごく東京っぽい
カウンセリングの時間をしっかり設けて、1対1のお見合いでの紹介を活動の中心に据えてからは成婚する人も徐々に増えた。ただし、世話オバは「絶対に結婚させる」ことが売り文句の会ではないと小野寺さんは言い添える。
「結婚したいのかどうかわからなくてもとりあえず来てみたら、というスタンスです。私たちといろいろ話して、お見合いもしてみることで、自分の考えがまとまってくるのですね。結果として成婚しなくても、『すごく人生勉強になりました』と感謝してくれる人が多いです。成婚だけがゴールじゃない。すごく東京っぽいと思います」
世話オバの目的は縁結び。婚活ではなく「縁活」なのだ。こうした価値観と明るい雰囲気に惹かれて、世話オバには好奇心旺盛でこだわりの強い男女が会員になることが多いという。こだわりがあるのは良いことだが、結婚を視野に入れるのであれば柔軟性も必要だと下間さんは指摘する。
「成婚する人には共通点があります。根が素直なこと。私たちが『この人、いい人だな~』と感じていると、時間はかかったとしても最終的には結婚相手が見つかることが多いですね」
結婚とは他者との共同生活をゼロから始めることだ。「自分が絶対に正しい」という態度ではうまくいきにくい。「自分と同じように相手にも趣味嗜好があり、いろんな都合もある」と理解して、なんとか折り合いをつけていくことが必要になる。その姿勢ができている人は、結婚相手候補の幅が広くなり、相手からも「この人なら一緒に暮らせるかも」と見つけてもらいやすい。下間さんの言いたいことはそういうことなのだろう。
「3者面談」という贅沢。カウンセリングは2人組で実施
世話オバのスタッフは現在5人。それぞれ個性が強いだけに、自分のこだわりを会員に押し付けない工夫をしている。その一つが、会員へのカウンセリングは必ず2人組で行うこと。マンツーマンだと説教のようになりがちだが、3者面談ではいい意味での逃げ道を作ってあげられる。
例えば、下間さんが会員さんにアドバイスをしているときに、小野寺さんが「私はそう思わない」と口を挟むこともある。もちろん、逆のことも多い。世話オバのカウンセリングは主役である会員が幸せになる道筋を3人でざっくばらんに話し合う場なのだ。
世話オバの事務所は、神楽坂という町と人をつなぐことを目的としたNPO活動「ひとまちっくす神楽坂」の事務所も兼ねており、スタッフもほとんど同じだ。世話オバのカウンセリングや相談会などがない時間には、婚活とは関係のない多様な人が集まり、神楽坂の情報サイトを作るなどをしながら交流している。だから、この場にはオープンで前向きな空気が常に漂っているのだろう。
2010年からマイナーチェンジを重ねつつ世話オバを発展させてきた小野寺さんと下間さん。人と会い、そのお世話をすることを楽しんできたが、小野寺さんは次世代のスタッフ育成も視野に入れている。
「私たちもすでにアラフィフ。のれん分けをしてもいいし、引き継げる人も探さなくてはと思っています。大儲けできる仕事ではないけれど、やりがいは大きいです。人間観察の面白さもありますよ」
結婚には、恋愛だけではなく仕事や家族を含めた人の生活そのものが詰まっている。そのお手伝いをしながら、人生や人間関係を考察できる――。これほど面白い仕事はなかなか見つからない。世話オバの事務所でおしゃべりをしているとそんなことを感じた。 (取材日:2018年10月25日)
※東京世話焼きおばさんの縁結びの問い合わせ先はこちらです。
※本記事は結婚相談所比較申込サイト「こんかつ山」で掲載していたものです。サイトの閉鎖に伴い、関係者の許可を得て、本ホームページに転載します。記事内容は取材当時のものです。
著者プロフィール
- 1976年埼玉県所沢市生まれ、東京都東村山市育ち。男三人兄弟の真ん中。一橋大学法学部を卒業後、ファーストリテイリング(ユニクロ)に入社して1年後に退社。編集プロダクションを経て、2002年よりフリーライターになる。
高校(武蔵境)・予備校(吉祥寺)・大学(国立)を中央線沿線で過ごし、独立後の通算8年間は中央線臭が最も濃いといわれる西荻窪で一人暮らし。新旧の個人商店が集まる町に居心地の良さを感じていた。今でも折に触れて西荻に「里帰り」している。
2012年、再婚を機に愛知県蒲郡市に移住。昭和感が濃厚な黄昏の町に親しみを覚えている。月のうち数日間は東京・門前仲町に滞在し、東京原住民カルチャーを体験中。
2019年、長期連載『晩婚さんいらっしゃい!』により東洋経済オンラインアワード2019「ロングランヒット賞」を受賞。
<著書>
『30代未婚男』(リクルートワークス研究所との共著/NHK出版 生活人新書)
『ダブルキャリア』(荻野進介氏との共著/NHK出版 生活人新書)
『バブルの遺言』(廣済堂出版)
『あした会社がなくなっても生きていく12の知恵』(ぱる出版)
『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました』(ぱる出版)
『人は死ぬまで結婚できる~晩婚時代の幸せのつかみ方~』(講談社+α新書)
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