Bridalチューリップ(東京都豊島区)

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写真:ベテラン美容師のような風貌の桑山さん。ネイルサロンも経営している。「身だしなみも婚活の大切な要素です」

結婚相談所に筆者が余計なお世話をしたくなる
 結婚相談所の訪問取材を続けていると、会員のお世話をしている相談所に対して筆者が「余計なお世話」を言いたくなることがある。例えば、恋活・婚活アプリ大手のペアーズなどが独身証明書の提出を必須にした婚活サービスを始め、相談所の領域に進出していること。うかうかしていると相談所の存在意義が失われてしまうのではないかと心配になるのだ。
 他にも言いたい。相談所は結婚という人生の重大事において顧客と関わっているのに、リピート客を前提としていないビジネスモデルであることが多い。客の側としては、1日も早く結婚して相談所と縁を切ることが目的となってしまう。常に新規顧客を求め続けるのは疲弊するし、健全なビジネスとは言えない。
 このような筆者の心配を解消する試みをしている結婚相談所がある。東京・高田馬場に本拠を置くBridalチューリップだ。代表取締役の桑山裕史さんに会い、まずは10年前に起業した経緯から聞くことにした。
「無縁社会の解消が弊社のビジョンです。私自身は30歳で独立することを決めていました」
 大学卒業後に大手の通信販売企業に就職し、シニア層向けに高額商品を販売する部門に配属された桑山さん。経済的には裕福でかつ健康な60代70代の顧客から、「一人だと寂しくて辛い」「死にたい」といった声を聞いて驚いたと振り返る。起業後、孤独の解消という深刻なニーズに応えるビジネスを試行錯誤。現在はシニア層の子ども世代である人々の結婚支援に注力している。将来の単身高齢者を一人でも減らすことが目的だ。

可愛らしい雰囲気のサロンの入り口。成婚退会者の嬉しそうな写真が所狭しと飾ってある。

可愛らしい雰囲気のサロンの入り口。成婚退会者の嬉しそうな写真が所狭しと飾ってある。

カウンセラー12名体制だからできることがある
 大きな目標を掲げると、組織も大きめになり、やり方も徹底的になるのかもしれない。Bridalチューリップは約20名で構成されており、会員のカウンセリング業務に集中するスタッフを12人も抱えている。
「会員の方との世代ギャップを生まないために、20代から70代のカウンセラーを揃えています。サブのカウンセラーも必ず入るので、相性が合わなかったときに担当変更もしやすいのが特徴です。Bridalチューリップで成婚した卒業生も4人いて、研修を経てカウンセラーとして採用しています。経験者なので婚活のコツやポイントをよくわかっている人たちです」
 他の多くの相談所と同じく、Bridalチューリップも大手の連盟(会員情報を共有するデータベースシステム)に加入している。ただし、お見合いを組む際は連盟に依存し過ぎない。成婚者のうち、約2割は自会員だと桑山さんは明かす。
 余談になるが、連盟のシステムを使ったお見合いでは、相手に関する詳しい情報は相手方の相談所に聞くしかない。会員とのコミュニケーションが希薄な相談所と当たってしまうと、相手のプロフィールや心境が把握しきれず、自会員に対するサポートも限られたものになりかねない。一方、自会員同士を引き合わせる場合は、カウンセラーが双方をきちんとフォローできるため、本当の意味での「仲人」をしやすくなる。なお、成婚料も両者からもらえるため、会社の収益も倍になる。
「弊社ではカウンセラーの教育とコミュニケーションを最も重視しています。全員でのミーティングは毎週欠かせません。最後はやっぱり人なのです」

アプリにスタッフを派遣。成婚者は「同窓会」にご案内
 冒頭の課題に戻る。まずは隆盛するアプリへの対応だ。Bridalチューリップは「無視」や「対抗」ではなく「提携」という道を選んだ。具体的には、加入している連盟が運営する婚活アプリ「ブライダルネット」に3人のスタッフを「婚シェル」として派遣。そこでも収益を上げると同時に、アプリの利用者の一部にはBridalチューリップを紹介している。
「20代30代の独身者の多くがアプリを利用していますが、それではなかなかうまくいかない人もいます。より真剣度の高い人が集まっている結婚相談所のほうが向いている場合もあるのです。アプリ利用者の1割程度が結婚相談所の潜在顧客だと私は思っています」
 アプリでも収益を上げられるのであれば、客を奪い合う必要はない。場合によっては自社の結婚相談所を紹介する、というスタンスを保てる。
 後者の課題はどうか。桑山さんは筆者から言われるまでもなく、「公的な証明書も含めた個人情報をいただいていて、カウンセラーとの信頼関係があるお客様と成婚でサヨナラするのはもったいない」という意識を抱いている。
「弊社は在籍会員に対する成婚率が30%ほどです。大手と比べて高い数字だと思います。しかも、プロポーズをして受けてもらっただけでは成婚とみなしません。双方の家族に紹介をして承諾された時点で報告していただくので、結婚した後も『子どもが生まれた』などの連絡をいただくことが少なくありません。3年前から成婚退会者向けのアルムナイ(同窓会)を組織しています」
 同窓会の会員数は現在360人ほど。まだ収益にはつなげていないそうだが、信頼関係のある家族とぴったり寄り添うことで何らかのニーズをつかみ、新たなサービスを提供できるかもしれない。
 「無縁社会の解消」という大志を掲げ、顧客を見つめながらアイディアを果敢に実行している桑山さん。筆者もつい相談したくなり、本連載の母体である「こんかつ山」をもっと多くの婚活ユーザーに利用してもらうにはどうすればいいのかを聞いた。桑山さんは真剣に考えて、具体的なアドバイスをくれる。柔軟性と実行力の塊のような人だな、と思った。(取材日:2019年9月6日)

※Bridalチューリップの問い合わせ先はこちらです。
※本記事は結婚相談所比較申込サイト「こんかつ山」で掲載していたものです。サイトの閉鎖に伴い、関係者の許可を得て、本ホームページに転載します。記事内容は取材当時のものです。

著者プロフィール

大宮 冬洋
 1976年埼玉県所沢市生まれ、東京都東村山市育ち。男三人兄弟の真ん中。一橋大学法学部を卒業後、ファーストリテイリング(ユニクロ)に入社して1年後に退社。編集プロダクションを経て、2002年よりフリーライターになる。
 高校(武蔵境)・予備校(吉祥寺)・大学(国立)を中央線沿線で過ごし、独立後の通算8年間は中央線臭が最も濃いといわれる西荻窪で一人暮らし。新旧の個人商店が集まる町に居心地の良さを感じていた。今でも折に触れて西荻に「里帰り」している。
 2012年、再婚を機に愛知県蒲郡市に移住。昭和感が濃厚な黄昏の町に親しみを覚えている。月のうち数日間は東京・門前仲町に滞在し、東京原住民カルチャーを体験中。
 2019年、長期連載『晩婚さんいらっしゃい!』により東洋経済オンラインアワード2019「ロングランヒット賞」を受賞。

<著書>
『30代未婚男』(リクルートワークス研究所との共著/NHK出版 生活人新書)
『ダブルキャリア』(荻野進介氏との共著/NHK出版 生活人新書)
『バブルの遺言』(廣済堂出版)
『あした会社がなくなっても生きていく12の知恵』(ぱる出版)
『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました』(ぱる出版)
『人は死ぬまで結婚できる~晩婚時代の幸せのつかみ方~』(講談社+α新書)
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